AICON  NEWS

Vol.33 (2000.6)

 

今月の発想転換用語

理事長 新井 信裕


知的所有権 ⇒ ビジネスモデル特許

  生産に重点を置く「工業社会」からサービスに重点を置く「ナレッジマネジメント社会」へとシフトし、「構造的変革」に対応する発想転換がより強調されている。
  人の生き方として「額に汗して働くことに喜びを見出だし、報酬は成果配分」とする発想は「ワーカーホリック」(働き中毒)としてヤユされることとなった。
  代わって、頭を使って新しいサービス提供方式を案出し、株式公開で高い成功報酬を獲得し、長期リーブを楽しむ活き方がエクセレントな活き方ともてはやされている。
  この典型例として、最近話題に上がっているのが「ビジネスモデル特許」である。
博士を持つ研究者の長期にわたる研究成果、「ヒラメキ」によるデザイン、華麗な文章力など特殊な能力を持つ一部の人たちのものと思われてきた「知的所有権」に新たな異変が起き、誰でも新発明の億万長者になれる社会となりそうである。
  もともと新規性、独自性、進歩性を持つ「発明」に付与されてきた知的所有権にIT(情報技術)を組合わせたものを新たな特許として認めたアメリカがその発進地である。
政府が「特許新時代」を宣言し、ビジネスモデル特許の取得を奨励したからである。
  その端緒となったのが有名な「ステート・ストリート・バンク事件」である。
シグネチュア・ファイナンス社が複数顧客の投資信託を一つの金融商品として出願し、その方式を利用しているステート・ストリート銀行に使用差止めを求めて告訴した。
  この訴訟は1998年7月連邦巡回控訴裁判所、さらに1999年1月には連邦最高裁がシグネチュア・ファイナンス社の訴えを認め、ステート・ストリート銀行に差止め命令が下され、特許が成立したのである。
  また、アマゾン・ドット・コムの顧客管理システムである「ワンリック」を犯したとしてライバルのバーンズ・アンドノーブルが敗訴したのも一役買っている。
  裁判所の理論は「ビジネスの仕組み例えば、新生産システム、新販売方式、新サービス提供方式の全てが特許となるものとするお墨付きを与えたのである。
そして、この判決を契機にアメリカでは金融システム、e−コマース、ビジネス・システムの特許出願が続出し、日本がいずれ窮地に陥るのではと警告する向きも少なくない。
  日本でも、既に住友銀行がネット上の入金照合サービス、トヨタ自動車が生産システムの「電子カンバン」、凸版印刷が地図情報ホームページの広告表示など出願が始まっている。
  笑い話の域を出ないが勤め帰りに立ち寄る「立ち飲みカウンター」「夕暮おつまみ付きジョッキ・セット」もビジネス特許になるかもしれない。


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