AICON  NEWS

Vol.36 (2000.9)

 

今月の発想転換用語

理事長 新井 信裕


手作業の技能 ⇒ デジタル技術の匠

  シドニーオリンピックの話題で持ちきりの昨今、もう一つのオリンピックを思い出した。技能オリンピックである。鋳造、鍛造、切削加工、溶接、旋盤等の金属加工から、木工加工の分野まで日本が金メダルの獲得ナンバーワン国ともてはやされたのも今は懐かしい。
やがて、韓国に追い越されこの頃はどうなったのか殆ど話題にならない。
  技能士制度も伝統工芸士制度もあるのに技能王国は崩壊したと嘆く古株技能工もいる。
その一方、ミクロン単位の検査には精密測定器により熟練工の指先触角がすぐれていると匠を紹介し、その技能は世界一と鳴り物入りで報道されることもある。
  この真偽はともかく、従前の匠が最近の電子工学、先端技術との融合により大きくも変革を遂げつつあるのは事実である。
例えば自動車製造ラインにおいて、作業者が入り込めない極限状態の作業環境である溶接、塗装等の工程の匠は既にロボットに代替されているのが実態である。
  手作業中心の匠の存在は精密・微細加工のマイクロマシンに取って代わられ、定量的安定品質を保証しているのであり、これを技能の退化と見る考え方には納得がいかない。
  今からの匠に必要なのは、デジタル化されたデータを読取り、自動制御する加工機械群を前に、システムの異常作動を監視し事故を未然に防ぐ技能である。
これは技能の退化ではなく技能の匠からデジタル活用の匠への進化と理解すべきである。
  と同時に指摘しておかなければならないのは、個々の特定の技能者に培われた職人感覚の技能に代わり、客観的に定量化され、誰でも再現できる安定性を備えた無数の匠の存在が保証される時代となったことである。
  ついでにかの名高いドイツのマイスターがどのように推移しているかを確認してみる。
1953年以来、手作業の権威として国家資格を付与されてきたマイスターは単なる技能を超えた資格へと大きく変貌しつつあるといえよう。
マイスターの個人的技能ノウハウをデーターべース化するとともに、新たに電子工学の分野をマイスター制度の中に取り込み、さらに、複数の作業者をコントロールする技能も兼ね備えるように求めているという。
  その点では、既にわが国はずっと以前から、同様な日本的マイスター制度を導入して高い生産性を上げてきていたものと言えよう。
直接作業員のモラールアップを図る「現場の人事」の担当者としてのベテラン技能工の配置がそれであり、その作業の手配の良さ、製品の出来栄えが畏敬の念を以って、新入工員に見つめられ、それが古参技能工のプライドを高めてきたのである。


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