AICON  NEWS

Vol.38 (2000.11)

 

今月の発想転換用語

理事長 新井 信裕


68SNA ⇒ 93SNA

 今月は景気論に関する新発想への転換を話題としてみる。
 新内閣が必ずしも良くならない景気に業を煮やしたのか今まで22年間も使ってきたGDP(国内総生産)の算出方法を突如として変えてしまった。
 従来は国連統計委員会が68年に決めていたSNA計算方式を使ってきたのであるが、今回はそれを93年に改訂されたSNA方式に変えることとしたのである。
 SNAはGDP(国内総生産)の算出に用いられる[国民経済計算]の略語であり、詳細にはSystem of National Accounts & Supporting Table of UN である。
 この結果、GDPが押し上げられ、景気は良くなっていると説明する政府に都合の良いものとなった。
 国際化に不熱心でアメリカ政府のブーイングを買っている政府としては珍しく早い国際化行動である。
 新用語を作り出すことのうまい作家を内閣に入れたのに、色よい景気浮揚タイコを叩かないものだから、頭ばかり高くて鼻持ちならない経済官僚に発言の機会を与えて、世論の支持誘発を狙ったものとも勘繰りたくなる。
 この計算では、今まで「中間消費」としてGDPに参入されていなかったソフトウエアー開発費、プログラム作成費等が設備投資に加算され99年実績でGDPを6兆円増加させるという。さらに、公共投資で行ったインフラ(社会資本)にも経済計算を導入し、減価償却費を計上すべきであるとし、その額は11兆円に達すると指摘する。
 企業の設備投資と同様に公共投資により建設されてきた道路、橋、港湾、ダムの減価償却は当然のこととする理論的根拠が出来上がっている。
 この他、国連の決めたSNAではないが最近脚光を浴びているNPO(非営利組織)にもGDP押し上げの役割を担わせる発想が既に国民生活白書にも明らかにされている。
 NPOの提供するサービス価値が一般的な提供コストより低い場合、その差額はGDPに加算されるべきものとする発想である。
 市民の義務と理解する人たちが気持ち良く、タダでやってあげた好意まで国内生産とみなされ、金額換算されるとあっては、ボランティアとはなんぞやと考えさせられる。
 ところが、このような計算の結果、国や地方自治体に必要とされている貸借対照表の社会資本が減価し、資産が目減りするとともに、今後の引当財源つまり負債の増加についても考慮しなければならない。
 企業が苦しんでいる「退職引当金」と同様、償却すべき過去の公共投資に対する引当不足、不足する年金財源等を国の負債勘定に立てたらどうなるか、考えるだけでおぞましい。
 かくして、好景気は実態とは遊離した政治の場で作られ、町工場や商店街とは無縁のものとの印象を強くする昨今である。

以上


これより先は会員専用となっております。

戻る