AICON  NEWS

Vol.44 (2001.5)

 

今月の発想転換用語

理事長 新井 信裕

庶民の株式投資 ⇒ 庶民のキャッシュフロー

 長い間、1,200兆円といわれた、わが国の個人金融資産が今日では、1,400兆円を超えたとされ、その行方は現金への偏重と悪いごとのように指摘されている。
 先進国の一端を占めながら、株式への投資が過小であり、株価低迷が不景気の真因と、G7は日本国向け警鐘会議と変じ、国内では株式買取機構の創設が政治課題となる気配である。
 そもそも、株式投資が庶民からウサンクサイ「ばくち」投機と見られてきたことをわが国の特異性であり、後進性の証左とするような発想は適切な指摘であろうか。
 欧米並みに資産運用にもっと株式を組み入れるべきであるといわれても額に汗せず、一夜にして巨万の富を手にするような行為に荷担しない、わが国民性こそ評価すべきではないだろうか。
 もちろんこうなった経過を無視するわけにはいかない。
 株価は企業系列の相互持合いにより、支えられ経営不振であっても、グループの一員である限り、どこかにはめ込まれ、配当と株価は乖離して決められてきた。
 その最大の引受手は銀行であり、持合いが含み資産増加に寄与して銀行株価をかさ上げしたが、バブルの崩壊は単純計算で株式の簿価が半分となれば、仮に金利レートを2%としても20年程度かけなければ元を取れないことになる。
 これだけですまないで強烈な打撃となったのが地価である。
日本全国の企業所有土地が全部売りに出されても全部売れるという前提条件が非常識であることは子供でも分かったハズなのにみんな目の色を変えて、銀行から借りて土地買いに走った。
その結果倒産企業の担保だった土地、銀行店舗用に取得した土地の時価は半分になった。その上、1000万円のペイ・オフが話題となれば銀行預金を続けるほど、大衆は甘くない。
 さらにこれでもかと、海外の低廉な労働力に依存する輸入品の流入が物価を押し下げ、今日の1000円が半年後には1100円に使えるとなれば誰もが現金を貯めこむことになる。
 アメリカ連邦準備会議理事会議長は「心因性不況」なる新語でアメリカ経済への警戒感を強めているが、わが国はその最先端を行って、既に「将来不安から来る消費萎縮症」に陥っている。
 景気が悪いと言い出して既に10年、それでも餓死者も凍死者も出ていない。
「トヨアシハラ千穂秋の瑞穂の国」なのである。
 これ以上、内需拡大に走れといっても、その後の環境汚染を考えれば今が適切なのである。
 前年同月対比の景気拡大に期待することは地球環境破壊者として地球犯罪法廷の被告ともなる愚を冒すことを意味する。
 もう景気が悪いを合言葉とする挨拶は止めにしよう。
そういえば、企業のキャッシュフローを説きながら、庶民のキャッシュフローを否認するような風潮にも歯止めを掛けなければならない。


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