AICON  NEWS

Vol.57 (2002.6)

 

今月の発想転換用語

理事長 新井 信裕

デジタル・デハイド⇒バイオ・デバイド

 アメリカの情報産業の発展がデジタル関係産業の従事者とその他の産業従事者の間に所得格差を生み、新たな社会問題となるとの指摘がデジタル・バイトだった。
 経済社会では、ニーズある製品を真っ先に開発した者に先駆者利潤がもたらされるのであり、このような所得格差は発生して当然、やがて沈静化するものと見ていた。
 ニュー・エコノミーによる景気効用も一段落し、デジタル産業の業績が下方修正されるに及んでウォール街を包んでいた熱気が冷え込みつつある。
 その代表的銘柄が第三世代携帯に関係する通信大手であり、2000年春頃のピークから現在では3分の1の水準まで下落し、株式市場から見放されかかっている。
 通信料金を値下げしながら、ブローバンド(高速大容量)対応の設備投資を敢行し、その上、大型企業買収を繰り広げてきたのだから必然の結果といえよう。
 アメリカの株式は健全と個人投資比率の高さが指摘され続けてきたが、株価収益率(PER)が20数倍では高過ぎると日本と同じバブルを予測する向きも少なくない。こんな中、今後の有望成長産業と目されるバイオ・ビジネスについても同じような所得格差が生ずる可能性があるとの指摘が出始めた。
 それは人の命を短命にしている遺伝子を取り除く技術が開発され、人間の寿命を延ばす産業が新たに出現するというものである。
 その結果、その分野に従事する人達をリッチにし、今花形のデジタル産業従事者をやがて低所得へと追いやること間違いないとのご宣託である。
 遺伝子操作で造られた長寿維持薬品や食品を作る産業がトップ産業となり、その従事者が高い所得を上げるバイオ・デバイド(バイオによる所得格差)が起きるという。
 このことをデジタル・デバイドと同一次元で扱うことには問題がある。
 情報技術はタイムラグがあるものの確実に全人類に「情報の平等化」というメリットをもたらし、インターネットによってグローバルな社会経済発展を実現している。
 遺伝子操作を受けた高所得物が長生きを続け、それを受けられない者が短命に終わるようなことは生命の尊厳という観点に立てば許されるべきことではない。
 人のクローン(複製)については人道的倫理観から抑制すべきものとの見解が医学界の規範となっているが、この問題はその延長線上におかれるべきものである。
 自然科学の最先端技術研究者に人間性の原点に立った研究開発行動を取るよう要請し、なんとしてもバイオ・デバィドだけは避けなければならない。


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