AICON  NEWS

Vol.62 (2002.11)

 

今月の発想転換用語

理事長 新井 信裕

月給制⇒時間給制

 昔からサラリーマンといえば月給で雇われる事務職、中堅幹部であった。
 これに対して一般的に臨時雇員とか工場の現場工員は日給月給の時間給であった。
 工場現場のアブセンチズムを抑制し、欠勤すれば手取り収入に響くことから休むに休めないようにして現場労働者を取り込むのが労務屋の常套手段だったからである。
 臨時や工員は早く正規従業員に昇格し、月給をもらえる身分になることを目指して、無遅刻・無欠勤で刻苦勉励し、資格昇格試験に賭けた。
 この差別化による締め付けは高度成長期の初任給アップ・それを受けた年功給の加算で、生活給レベルを脱するところまで到達したと同時に殆ど意識されなくなった。
 食うための賃金から、「自分の所得」でゆとりを楽しむパート労働の激増で時間給が当たり前となったからである。
 これを典型的に示すのがスーパー、コンビニエンスのパート主婦であり、生活給でないからこそ今日のレベルで収まっているものといえるだろう。
 そんな低賃金に支えられていた大手量販店が軒並み枕を並べて、再生途上にある。
 今問題となっているデフレもこうした低賃金労働力が下支えしているともいえる。
春闘、年末闘争と経営陣と対峙した「総評」は今や無く、聞こえるのは年俸制という実質賃金カットであり、さらに会社都合によるリストラ首切である。
 かつて労働法制は弱い立場の雇用者を酷使し、労働搾取を抑止する資本家を牽制し、違法として糾弾する国家政策であった。
 だが、生活できない賃金から脱却するに及んで、働く側にも固定的な月給制より、努力すれば成果に応じて遇される時間給を選好する方向へとシフトしつつある。
 コアタイムすらないフレックスタイム、在宅勤務が導入され、裁量労働制が一般的となるに及んで、やかましくいわれた労働時間規制は事実上瓦解した。
 典型例がIT産業の最前線で用いらている稼働時間に時間単価を勢けた見積もりである。問題はこのような時間給の基準が労働の質を反映したものとなっているかにかかっている。
 情報産業の見積基準には一律に高い時間単価が設定され、労働の質を反映して設定されているとは考えられないものが多い。
 能力の差異が歴然としているにもかかわらず、単価一律の掛算で算出されては低い能力のものを高く評価する「逆差別」ともなるものであり疑問を感ぜざるを得ない。
 時間給への移行に労働の質的レベルを導入するためには従来の職務評価に代わり・新たな評価要因の導入が不可欠である。
 まずコンプライアンス(順法)とアカウンタビリティ(説明責任)を精神的基盤に置く経営倫理意識を備えていることが求められる。
 ついで、このような基盤に知的創造能力、熟練技能レベル、単位時間処理能力、無欠陥度などのマルチ評価要因を盛り込むことが必要であり、今後の人的経営資源活用の新課題である。


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