AICON  NEWS

Vol.67 (2003.4)

 

今月の発想転換用語

理事長 新井 信裕

悪いデフレ⇒良いデフレ

 わが国は先進国蔵相・総裁会議で日本発世界恐慌の引き金を公然と懸念する発言に萎縮し、頭を垂れ続け、なるべくこの問題が大きな課題とならないよう期待している。
 先進国で唯一デフレとなったわが国の内需拡大への国際的要請に対し、政府は金融機関への公的資金注入、日銀券の大幅増刷による過剰流動性創出で応えようと必死である。
 ついこの間までインフレこそ国を滅ぼす悪政とインフレ退治の必要性を強調してきたエコノミストはデフレ叩きに宗旨替えして相変わらず専門家面している。
 かつて高いインフレ率と高い失業率を組合せて「ミゼラブル指数」として最も忌避していたのに「デフレこそもっと怖い」というエコノミストの変節に驚嘆するのみである。
 昨日より今日の物価が下がり、デフレのアリガタミを味わっている庶民もいる。この目から見れば納得できないのが実態であり、「何故デフレが悪いの」とその道の専門家を任ずるエコノミストヘの不信感が募るのは当然である。
 悪いデフレとは過当競争で低価格ダンピング販売を展開し、欠損企業続出となり、このため景気の牽引車であるべき新規設備投資が減退し、国民経済は収縮への螺旋(スパイラル)を転げ落ち、救いようのない状態となると指摘する。
 だが、この発想は過去の高度成長の延長線上にある幻影であり、今日の経済の構造的変革を理解しない迷妄の過ちであることを指摘しなければならない。
 収益の計上を図るべき企業が何故、過当競争のワナに陥るのか。その真因は「供給過剰」に気付いていないか、あるいはそう考えたくないことに端を発する。「モノ充足」により、これ以上買えといわれても買わない消費者の実態を自らの購買姿勢と照合してみれば一目瞭然であろう。腹一杯以上に食えといわれても血糖値、コレステロールを考えればそうはしないだろうし、安いセーターが売られていてもタンスー杯のセーターの数を思い出せば買えなくなる。
 結論すれば、マーケットが飽和に達した産業分野において需要量にマッチするまで生産量を落とすのが当然であり、そこで生産コストに見合う販売が可能となり収益も生まれる。  デフレが悪いのではなく、供給過剰状態を継続し、ダンピングしていることに全ての原因が存在することに気付くべきである。
 「鉄は国家なり」と長い間わが国の基幹産業と評されてきた鉄鋼業においてすら日本鋼管と川崎製鉄が手を結び、程なくして新日鉄、住友金属、神戸製鋼が提携する。
 世界の大手自動車メーカーも国際調達をめざしてコビシントにるアライアンス(同盟)を構築する時代である。  このように見てくるとデフレは悪いのでなく良いものであり、需要と供給のアンバランスを解消する過渡的な過程で起こる一時的摩擦と考えるべきであろう。
 しかも、この一時的摩擦は国際比較において内外格差を指摘されるわが国の高物価水準を国際水準に近づける点において好ましいものと評価されるべきである。
 経済音痴とされる内閣は新日銀総裁にデフレ脱却を期待するとの指摘もあるが、今日の状況では、そんなに多くの努力をしなくてもインフレ傾向に向かうことがほぼ明らかである。
 イラク問題でエネルギーコストが徐々に上昇し、これを受けて原材料国際市況は値上がり傾向を示しており、気の早い中小企業経営者は現物の先買いに走っている。
 前の卸売物物価指数が値下がり一方であることに業を煮やし「企業物価指数」と名前を変えたものとのうがった見方もあるのが名称変更後、値上がり傾向が多く認められる。
 かくしてデフレを恐れての意図的インフレ導入を図るまでも無く、需要量に合わせた供給が行なわれるようになって、物価はコストに見合って自然に上昇することとなるのである。


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