AICON  NEWS

Vol.68 (2003.5)

 

今月の発想転換用語

理事長 新井 信裕

思惑社会⇒公開社会

 株式市場の不振が政界異変を招きかねない風向きとなってきて、日銀が株を買い上げたり、株税制の手直しを加えるべきとの議論百出、大忙しの状況である。
 それでも誰も株に手を出そうという気すらないし、政治屋も選挙資金を株式でなぞと考えたらイドベイ覚悟ということを知っている。
 そもそも、一般民衆から見れば今日の状況は供給過剰で飽和状態に到達し、その結果、買う気を失ったのであって、深刻に不況からの離脱を熱望しているとは思えない。
 結構、物価が下がって、着るものも食べる物も安く手に入る状況で満足し、デフレが大変などとエコノミストが絶叫してもあんまり気にならないのが実態である。
 だれでも利殖の必要性は認めるものの金融のプロが運用しても年金破綻、生命保険破綻となるのだから今さら株で巨万の宮を築こうなどという幻影に酔うはずも無い。
 唯一、今まで政治資金を株価操作で手にしてきた大物政治屋も政党交付金と政経パーティ券の方が安全有利と株離れを起こしている。
 こう見てくると、かつてのような株式市況の到来を期待する向きが殆ど見当らないということに気付く。  今日の金融機関の凋落は株式の操作に参加した多数のチャンピオンがリタイヤして参加しなくなったことに起因する。
 カブトチョウのワザシとかキタハマの鬼といわれた面々が株式市場を個人の思惑で動かし株式による幸運な蓄財者を生んできたが、今やその機能は不全となった。
 このような事態となったのはIT(情報技術)によって「思惑が効く社会」から、全貝が同一の情報を同時に手にできる「公開社会」へと進化したことにある。
 世界の全ての状況を知ることか不可能な時代には勘や度胸で大勝負の賭けに出ることが幸運をもたらした。  今、世界のどこにいても瞬時に同一の情報が得られるネットワーク社会となって「思惑」が働かなくなり、多くのデー・トレーダーが自殺に追い込まれているという。
全世界の情報を得て、それから優位な経済的利得を得ようとするならば24時間公開情報を分析する生活を余儀なくされるのであり、まともな人間ならばとても生きられまい。
 しかも、コーポレートガバナンスとかビジネスエシックスといわれるような経営者行動への精神的呪縛、インサイダー取引の刑事訴追で「最も早く情報を手に入れたものの幸運」ですら認めないこととなった。
 世界の長者番付に乗っていても所有する株式時価が維持できなくなればその地位を失う。
 こう見てくると経済音痴で他人任せの総理が株式の最安値を招いたとするような批判は当を得ていないような気もする。
 公開社会においては政治は誰がやっても格段に難しくなっている。
わが国だけがデフレの発信者として悪者扱いをされているが、ドイツもデフレに直面し、アメリカもその傾向が見受けられるとされる。
これからの状況は希薄な情報のもとで働いた思惑を不発とするように働く公開社会という新潮流がもたらした結果であり、正に構造改革の事例の一つである。


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