AICON  NEWS

Vol.69 (2003.6)

 

今月の発想転換用語

理事長 新井 信裕

単一人生観⇒多様人生観

 最近、若者のフリーターが200万人に迫り、減るどころか増える傾向という。政府はこれを未就職または不安定就労として問題視し、エコノミストもわが国労働力の質的低下をもたらし、早晩わが国経済は先進国から脱落する引き金となると大げさに騒ぎ始めた。
 つい最近まで中高年の雇用ミスマッチが問題とされてきたのに、最近は大卒者の未就職率20%、若者がフリーターに転ずることを封ずるのが社会的課題と俄にオクターブが上がる。
 売れるエコノミストとして地位を不動とするため悲観論を吐かなければサバイバルできない輩(ヤカラ)の空騒ぎと決め付けたいものの正論でその否定を図るのも必要かと気付く。これを冷静に判断すれば経済の構造的変革が企業の対象とするマーケットを停滞させ、さらに減衰へと転落させて老若に関係なく雇用の継続維持が困難となったことに起因する。
 したがって、騒ぎ立てる前に、経済の構造変革に対応する人生観の変革が必要であり、これによってエコノミストの指摘するおろかな呪縛から逃れなければならない。
 高度成長期の人生観のプロトタイプ(標準形)は男子においては高学歴を修めて大企業に就杜し、刻苦勉励して管理職試験をパスし、立身出世を図ることにあった。
 女子にあっては短大を卒業し、良い家庭で炊事、洗濯、掃除を見習い、大企業の杜貝と結婚し、子供を生み育てる専業主婦となることが最も幸せな人生というのが常であった。
 わが国経済の成熟化の過程で、この構図は完全に崩壊した。男子においては入社した時、好業績であった大企業が管理職に就こうとする頃、倒産し、中高年になってから再就職先を探さなければならない悲劇に遭遇するのが当たり前となった。
 これは、「就杜(会社に入れば安泰)から就職」への人生観の転換で対応することを求めるものである。つまり、良い会社を選んだと歓喜する就社発想から、有望なマーケットを持つ職業を求めて果敢に就職する発想へと変革することによってのみ救われるのである。
 女子についても既に専業主婦は少数派であり、子育てが終われば、いや、子育て中といえども、産休権を活用し、自分の生きがいを求めて就職するのが当然の人生観となっている。
 男女共同参画型社会は政府の重要な課題であり、女子といえども職業の機会均等を求め、人によっては子育てより仕事が楽しいとシングルキャリアを目指し本物の就職を選ぶ。
 いや、学歴とか、産業戦士とかを意識して就杜している男性を尻目に、就壮観を脱却し、自分に最適の本物の就職を選び、自己実現を味わっているのは女子のほうかも知れない。
 かくして、老若男女を問わず、自分流の人生観を持ち、好きな仕事が見つかるまでフリーターを続けるのはイマヨウの生き方といえることになる。
 フリーターを続けているとパソコンを活用できず職業力が落ちるという懸念を指摘する評論が活発であるが、これは当たらないかもしれない。
 なぜならば、日々進歩する情報技術をマスターするには一定の業務に従事するより、変化のある仕事につくフリーターの方が幅広く活用できる力を身に付けやすいともいえる。
 さらに、人生60年が80年に伸びているのだから自己実現までの時間は充分にある。
 10年程度フリーターを続けてから、これはと納得した専門課程の大学や職業訓練校に入学し、人生2度大学、時によっては3度大学を出て、本物の就職を選択してもまだ、充分自己実現を満喫できる時間が残されているものといえる。
 また、かつてのように立身出世を目指さず、平のまま、好きな仕事を続けたいという人生観を選択する人がいてもおかしくない。
 かくして、構造変革期においては従来のような単一人生観から、多様な人生観を選ぶ発想へと変革することが求められるのであり、フリーターを見て慨嘆するのは時代錯誤といえる。


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