AICON  NEWS

Vol.70 (2003.7)

 

今月の発想転換用語

理事長 新井 信裕

重工業時代⇒柔工業時代

 最近、「重工業時代から柔工業時代へ」という表現が注目を集めている。今月はこの考え方を敷衍し、今後のわが国経済のありかたを展望してみる。
 かつてこの考え方に似たキャッチフレーズとして「重厚長大から軽薄短小へ」があった。だがこの発想には重厚長大産業を過去産業と位置付け、軽薄短小産業を今後の主役と位置付ける大いなる過ちがあった。
 軽薄短小のチャンピオンである情報産業機器メーカー、ソフトメーカーのみで新産業を維持できるかのごとき誤解と錯覚があった。
 そうした発想の過ちを立証したのが華々しく株式を公開し、お祝い相場を一度も上回ることなく経営蹉跌に至ったネットバブルの主宰者達の哀れな結末である。
 軽薄短小産業の成長を支えたのは重厚長大産業であることに気付かず、自分が主役であると勘違いした不幸な錯覚であり、それを助長したマスコミにも責任を課すべきであろう。
 重厚長大のチャンピオンである鉄鋼産業は炉内最良条件の温度、空気量の設定に経験豊かなスキルをもつ炉前夫を配置し、その作業条件に見合う危険手当を支払ってきた。
 これを最新のセンサーを開発し、劣悪な極限作業環境でも忠実に命令をこなすロボット導入で合理化し、労働災害の減少と人件費コストの削減に成功した。
 かくして、その合理化、安全性確保のオコボレが軽薄短小産業にもたらされたのである。おろかにも単独で経済の牽引車とうそぶいたIT産業は今、その機能性、社会性の発揮を担うに足る産業であるかの批評を受けつつある。
 ハイテク機器の高性能化、多機能化はフルタイムのメンテナンス無くして維持できない。その典型としてGEがあげらける。
 80年代に売上高構成比85%と主流を占めた製品が2000年には25%までに低落し売上高構成比75%を占める主役の座についているのがサービス売上であるという。しかしながら、この実績は発電機や家電などの旧製品に固執せず、新たなニーズに対応して航空機用エンジン、医療機器などの分野に新製品を開発し続けてきた努力の賜物である。
 かくして重工業時代から柔工業時代にシフトするのでなく重厚長大の製品開発が軽薄短小のサービス産業を生み、両者は連携して真の社会経済的寄与を果たせるのである。


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