AICON  NEWS

Vol.71 (2003.8)

 

今月の発想転換用語

理事長 新井 信裕

不運な失業⇒幸運な失業

 「失業率6%突破」「若年層失業率10%」と報じられても、あまり気にならなくなった。
 「失われた10年、最悪の不況」とその責任を首相に押し付ける評論家、エコノミスト、与党役員などがマスコミに続々登場しても、「不況ってなに」というのが庶民感覚の実態。
 かつては経済の悲惨な疲弊を失業率とインフレ率の和で説明する「ミゼラブル指数」なる言葉も聞かれたが、今や「デフレ克服が課題」と様変わりした。結構安くなった物価に満足している庶民が多く、内閣打倒と気勢を上げるデモもあまり見当らないし、素人目で見れば、まあ何とかなっているのにというのが実感である。
 リストラは厳密には、「経営の再構築」であったが雇用のミスマッチ、過剰雇用の解消を理由とする「早期退職勧告」「人員整理」の代名詞となってしまい、赤旗を林立させ、日本列島を交通マヒに追い込んだ「かつてのソウヒョウ今いずこ」である。
 会社都合退職がめったに無い時代の解雇は使い込みか、女性問題で懲戒解雇というのが一般的なケースであり、当然の報いと白眼視された。
 だが、過剰雇用が現実問題となり会社都合の人員整理が始まると、その対象者は「不運なお人」として同情され、失業者の群れに転ずる本人も大きな心理的ダメージを受けた。ところが、そのまま継続雇用されていても、仕事が無くやがて月給が出ない状態になるというような実態が分かるようになってくると、知恵ある人は別の選択を始める。
 このまま居座っても、いつかは泥船と心中ということを予知して早めの脱出を目論む。
 ここに、失業は不幸ではなく、むしろ早めに有望な新たな分野を選択し、転身するチャンスと理解されるようになり「幸運な失業」へと発想転換が進む。
 割増退職金を手にし、やや目減りしたとはいえ長期間、雇用保険を受け取り、不安はあるものの、当面の金銭面ではかえって恵まれたかの感さえする。
 今まで一流大学を出て、一流企業に「就社」し、エリート、やり手と評され、上を目指して突っ走ったことがいかに空しいことであったかを「毎日サンデー」の中で時間をかけて体感する。
 この結果、次なる本物の「就職」のため、何を専門分野とし、どう行動すべきかを、面子を捨て一人の人間として考えるようになる。
 そこで、今まで経験したことのない幸運な失業だったことを実感することとなる。
 会社も社員もマーケットのある分野に新参入する転身こそ唯一の救いとなる時代である。


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