特  集
下水道汚泥を巡る”連携”のあり方
■トピックス


産学連携による”高速酸化分解菌群によるノンスラッジ排水処理システム”の開発

京都大学大学院工学研究科教授
今中 忠行

鈴木産業

 

1.はじめに

 従来、開放系の排水処理施設においては、その排水に特有の活性汚泥を優先繁殖させて有機物の分解処理を行ってきたが、京都大学大学院および鈴木産業は、この活性汚泥以外に、高速酸化分解菌群をベースとして排水中の有機物分解処理を行うノンスラッジ排水処理システムを開発した。
 この開発は近畿経済産業局からの受託研究である即効型地域新生コンソーシアム研究開発事業の一環として産学連携で行われたもので(プロジェクトリーダー・今中忠行京都大学工学研究科教授)、高速酸化分解菌群による有機物分解処理は初めて。鈴木産業ではこの開発成果をもとに、同システムの発売を開始した。
 本稿では、同システムの概要について紹介する。

図-@

 

2.開発の目標と経緯

 即効型地域新生コンソーシアム研究開発事業”高速酸化分解菌群によるノンスラッジ排水処理システム”の研究には、京都大学、鈴木産業のほか、大日化成、同志社大学、熊本大学が参加した。
 図-@に研究開発中の課題・方法・目標を示す。
 この中ではまず、今中教授と大日化成が、今中教授が保持している高速酸化分解菌群(特許出願済)を使用し、排水施設中でこれらの菌群を優先増殖させ、有機物を完全酸化分解するバイオテクノロジー技術を確立した。
 また、有機物酸化分解活性を維持する酸素供給システムを、水島二郎同志社大学工学部教授と鈴木産業との共同開発による新型エアレーター(特許出願中)と、鈴木産業開発による超微細気泡発生装置を組み合わせることで開発し、高速処理を可能とした。
 さらに、古川憲治熊本大学工学部教授の指導により、膜分離法を用いて有機物を完全酸化分解する技術を確立した。

 

3.システムの概要

@ 汚泥が発生しない 

A ランニングコストの大幅低減が可能(10分の1を目標)。 

B 高速処理、処理時間の短縮が図れる(従来の10分の1を目標)。

C 操作が簡単なうえ、半無人化が可能。 

D 既存設備をそのまま利用可能。

 

 

4. 実証実験

 ミニプラントによる高速排水処理実験は、大同マルタ染工の協力のもと、同社の染色工場で行った。
 染色工場ではこれまで工程中に排出されるポリビニルアルコール:PVAが難分解性で問題視されてきたが、実証実験では、今中教授が選別・単離に成功したシュドモナス属、アシネドバクター属に属する常温好気性菌であるPVA有効菌3種を用い、各種のデータが収集された。

 それによると、PVA有効菌は優れて早い増殖速度(倍化時間20〜30分程度)を有し、排水中のBOD、COD、を炭酸ガスと水に完全分解することが確認されるとともに、BOD処理能力速度は標準活性汚泥法の10倍以上(標準活性汚泥法0.5〜1.5s/・日→5s/・日以上)、難分解性有機物質PVAに由来するCODは8倍以上の処理効果(同0.1s/・日→0.8s/・日で90%以上除去)があることが確認された。

5.まとめ

 高速酸化分解菌群によるノンスラッジ排水処理システムでは、排水処理の環境問題(排水基準、臭気等)を解決するだけでなく、省スペース、既存設備の利用、ランニングコスト(電力料金)、汚泥処理費の削減などの経済的効果を生み出す。また、難分解性物質を含む染色や食品、化学品、紙・パルプ、し尿処理など幅広い用途に適用できる。排水処理の新基幹技術になるといえる。

 

※月間下水道 vol.26より、抜粋。