クラプトン発掘調査隊 No.5                               
      
       
      (Play back No.2)1992年フィガロジャポン8月号 
                 <男の顔はストーリー・Eric
      Clapton>より 
       
       もの凄いハンサムとか、端正な顔立ちというのではないがーーー。 
        
       クラプトンの顔には、つねに寄り添っていたい、そんな母性本能をくすぐる脆さがある。 
         
       デビュー20周年のコンサートを数多くの友人に支えられて成功させた彼は、アルコール中毒によろけながらも、2度目のカムバックを遂げた。 
       
      以来10年間、引き締まった顔には深いシワが哲学的に増えているが、リラックスし 
      た表情に過去のかげりが見えることはもうない。 
        
      少し後退ぎみの額には、スーパースターの人生を悟った聡明さすら浮かんで見える。 
       でも・・・・・。不惑の40代に入っても、彼の魅力は強い男のそれとはちがう。 
         
      哲学者が強い意思をもつとは限らぬように、自分に道を知ってなお何かを求めてる、そんな弱さ、未完成な背景が彼にはある。だから、片時も彼から目が離せないのだ。 
       
      <1966ー1968> 
       
       21歳の青年が神様とあがめられるほどにギターがうまく、ベースの神様とドラム 
      の神様とロックグループを作ったら・・・・・。恐ろしいくらいに傲慢でふてぶてしい、そんな顔になるのは当然だろう。 
        
       でも、彼はいつでもなにかにいらだつように、ピリピリしていた。 
       神経質なシワガ眉間に刻まれたのもこのころ。 
        
      英国のグループでありながら、全米ナンバー1のミリオンセラーを記録するスーパーグループ。 
       
      そんな地位に彼の若さが追いたてられたとしても不思議じゃない。  
       
      そんな苦悩の顔はもちろん母性本能を刺激する。そして、自閉症ぎみにプレーに陶酔するあの顔は、女心をキュンとしめつける。 
       
       
      <1970ー1971> 
        
      クラプトンといえば”レイラ”といわれるほどの代表作。 
       
       親友ジョージ・ハリスンの妻パテイにささっげたこのラブソングは、デレクという別名で発表された。  
       
       かなわぬ恋を名曲にしたてるほど奔放な彼の70年代だ。 
       
       しかし、彼の顔は救道者のように頬がそげ落ちたかと思えば、あるときはむくんでいる。 
       
       このころのはやり病、ドラッグの世界にどっぷりと浸って、瞳孔の開いた眼差しだけが異様に 
      澄んでいる。 
       
       こんな瞳で”レイラ”を歌われたら、ファンが愛される自分を錯覚しても仕方ない。 
       
      クラプトン最悪の状況で、最大のヒット曲は生まれた。 
        
      そして、祖父が死に、親友ジミ・ヘンドリックス、デユアン・オールマンが他界。 
       
       さらなるドラッグへの逃避が、彼を亡霊のように希薄なものにしてしまう。 
       
       そして、彼は天国でのセッションを夢見ているみたいな隠遁生活にはいる。 
       
       
      <1974ー1979> 
        
       恋が妙薬なのは男も女もない。 
        
       ドラッグから抜け出しただけのカラッポの気分では、こうもあっけらかんとすがすがしい顔になれるものではないはずだ。 
        
       カムバックツアーに同行した、パテイ・ハリスンの存在のおかげで、彼はすっかり立ち直ったどころか、初めて青年らしい顔をファンにも披露する。 
       
       さまざまな奇行と額の明るさは、はしゃぎすぎともいえるくらい。 
       
       遅れてきた青春を満面に浮かべているのが、このころのクラプトンだ。 
       
       肌のつややかな輝きは、彼の純粋さのストレートな表現。 
       
       そしてこんな素直さに女はコロッといかれる。 
       
       音楽も顔同様にガラリと変わる。 
       
       レイドバックしたゆったりとした音楽。ヴォーカルもたっぷり聴かせて、ギターソロは少なめ。 
       
       ときにはバックミュージシャンのソロのほうが長いという変身ぶり。 
       
       サングラスをかけても瞳が笑ってる。 
       
       それがクラプトンのニューフェイスだ。 
       
       
      <1980ー1983> 
        
       つくづくクラプトンは弱ヤツなのかもしれない。 
       
       あふれるばかりの才能と愛する恋人を手に入れて、長者番付に載るほど稼いでも、彼はまた中毒になる。 
       
        
       今度はアルコール。 
       
       きついスケジュールに音をあげて、酒量は増えるばかり。 
        
       このころの彼は酒の量に正比例して、ヒゲのボリュームがふえていく。 
        
       素顔をさらす勇気が反比例したわけだ。なにが不満?なにが足りない? 
        
       女に不安の焦燥感をいだかせる彼の行動は、逆に女の愛をあおる。 
        
       スーパースターの宿命、眉間に深く刻まれる例のシワが、よりいっそう深くなるのもこのころだ。そして、さすがの神様の腕も鈍る。 
       
       弦をつまびく手の動きが速すぎて、”スローハンド”といわれた彼の手が、正真正銘のスローハンドになってしまう。 
       
       彼がヒゲをそって素顔を見せるまでに、3年が流れる。 
       
       そして、20歳にして、”ギターの神様”とうたわれた男は、30年間スーパースターでありつづけた。 
       
       不遜なまでの面がまえからヤク中、アル中の陰惨な顔までさらしながら。 
        
       そして現在、47歳の彼はステデイな陶酔感で変わらずファンを魅了してくれる。 
       
       スーパースターの人生を悟った深い顔は、それでもなお脆さが女心を刺激する。 
       
                                  
        【S Layla S】 
       
       
       
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